B面のつぶやき

美術館、図書館、喫茶店に出没しがちデイズ

朝倉摂展|練馬区美術館

朝倉摂(あさくら せつ、1922〜2014)という人を初めて知りました。

彫刻家、朝倉文夫の長女として生まれ、17歳で伊藤深水に日本画を学び、戦後は社会問題をテーマに作品を発表。60年代後半以降はは舞台美術に優れた足跡を残した女性です。

舞台セットの模型やデザイン画も興味深いものでしたが、見応えがあるのは絵画作品です。

若いころの作品は、色遣いの鮮やかさが目を引きます。特にサツマイモを収穫する3人の女性を描いた「歓び(1943)」は、全体的にピンク~赤色が多用された明るい画面で、戦時下という時代の暗さを感じさせません。

戦後、ピカソのキュビズスムやベン・シャーンの「社会派リアリズム」を学び、日本画に取り入れます。炭鉱労働者などに取材した作品は、一転して重苦しい雰囲気に包まれます。

ある炭鉱労働者に「絵描きさんはいいなぁ」と言われたというエピソードが紹介されていました。重い石を運ぶ必要などどなく、好きな絵を描いて生活できる自分の立場に、複雑な思いを抱いたのでしょう。

新聞小説の挿絵も手がけています。読売新聞夕刊に連載された松本清張砂の器」のコピーを見ることができました。こういうのって、あまり後世に残らない仕事だと思うので貴重です。ついでに昔の新聞広告も味わい深かった。

大佛次郎の「スイッチョねこ」という絵本も挿絵も良い。それにしても大佛次郎鞍馬天狗の作者)って500匹の猫と暮らしたそうですよ。当時の写真を見るとなかなかのもの。興味ある方は「大佛次郎 猫」で検索してください。

舞台美術に軸足を移して以降も、毎日絵を描くことは欠かさなかったそうです。展示されたスケッチブックを見ると、こんなこと言うのも大変失礼ですが、めちゃめちゃ上手。