B面のつぶやき

美術館、図書館、喫茶店に出没しがちデイズ

【九相図をよむ】日本におけるメメント・モリ

メメント・モリ(死を想え)」という有名な警句があります。

現代では「悔いなく生きろ」というポジティブな意味で使われることが多いようです。ラテン語だし、西洋起源の概念ですね。

日本でも昔から「死を忘れるな」という教えがありました。ただしその内容はメメント・モリとは雰囲気が違って、つまり「無常」ということです。「祇園精舎の鐘の声~」のアレです。

諸行無常については「すべてのものはいずれ滅びるのだから、欲望なんて無駄なこと」という意味だと私は理解しています。

栄華を誇った者も必ず命が尽きる。そして腐る。腐って動物の餌になる。餌になって骨だけが残る。ほらね、無常でしょ?というのを分かりやすく図に描いたものを「九相図(くそうず)」と呼びます。

「九相」というのは、亡くなった直後(あるいは生前)の姿から、骨になるまでの九段階の過程のこと(十段階描かれている場合でも九相図という)。描かれるのは高貴な若い女性であることが多いようです。

美しい身体がやがてガスで醜く膨らみ、野犬に喰いちぎられる姿はグロさ満載。しかし九相図は単なる好事家趣味のものではなく、何世紀にもわたって引き継がれてきた意義のあるものです。そういうことを解説している本がこちらです。

「現代によみがえる九相図」として、会田誠松井冬子の作品も紹介されていて驚きました。特に松井冬子の絵は実物を見てみたい。

ぼくは不完全な死体として生まれ 何十年かかゝって 完全な死体となるのである (寺山修司/懐かしのわが家)

十代の頃に出会ってしまった名言。死をおろそかにしないように(つまり生も)。

【写真】池袋のロマンス通り