朝、出勤のため着替えをしていると、夫が「たいへんだ」と小声で叫ぶのが聞こえた。襖を開けると、異臭と共に薄い灰色の煙が視界に映った。
少し前、夫がオーブンレンジでご飯を温める気配があった。ブーン、という音がいつもと違う(短い)タイミングで止まった感じがして、「あれ?」という声も聞こえた。
もう一度温めようとしたところ、異変は起こったようだ。
慌てて換気扇を回して、窓を開けて、電源コードを抜いた。
異臭は化学薬品みたいな、大量に吸い込むと危ないであろう類のものだ。
爆発しなくて良かったね、と言い合ったのち、家を出た。
もう使えないことは明らかなので、新しいオーブンレンジを探すべく電車の中、休憩時間、検索の鬼と化す。近頃のオーブンレンジの多機能ぶりを知る。
帰宅すると、部屋にはほんのりと異臭が残っていた。そういえば、煙が出ていたのに火災報知器が鳴らなかった。鳴らなくて良かったけど、本当は良くないのかもしれない。
実家のオーブンレンジは20年以上現役なので、2009年製なんて、まだまだ寿命なんか来ないと思っていた。そして電子レンジの最期は、スタートボタンを押しても反応しないというような、静かなものを想像していた。煙が出るなんて派手な結末は想定外のことだった。
レンジが使えないため、お湯を沸かした鍋の中に、冷えたご飯をのせたどんぶりを入れて蒸してみる。どんぶりの底が煮え立った湯に押し上げられてガタガタ音がする。
蒸気はすごい。機関車を動かしたり発電したりする。
あまりにやかましいので、鍋の底に布巾を敷くことを思いつく。レンジの便利さに打ちのめされる。
そして年末の押し迫った12月30日、新しいオーブンレンジが届きました。
次に危ないのは、20年を軽く超えている冷蔵庫だ。
【写真】千葉県某所の乾電池自動販売機