B面のつぶやき

美術館、図書館、喫茶店に出没しがちデイズ

うるしとともに―くらしのなかの漆芸美|泉屋博古館東京

六本木一丁目駅の出口から続くエスカレーターに乗って美術館に向かう。

通路沿いの植木には銀色のシートが被せられ、「芽吹くまでお待ちください」というメッセージが下がっている。登り切って振り返ると赤坂の街のビルが、今立っている地点のずっと下の方から生えて眺望を遮っている。美術館の周辺は桜並木で、あと2か月もすれば花が咲いて一気に華やかになるのだが、今はまだ、寒々と身を寄せ合っている。

「くらしのなかの」がテーマの展覧会ということで、宴や茶会、書斎などの生活シーンで使われた漆工芸の作品が並んでいる。手の込んだ美しい工芸品は見るだけで目に良いものだけど、これらの豪華な品々が彩ったくらしとはどんなものなのか、夢のようで想像できない。

大作よりも香合や棗のような手のひらサイズのものについ目がいく。朱塗りの花びらの形をした盆に、達磨の絵が描かれた香合が乗せられている。明時代に別々に作られたものが日本に渡り、それを見つけた日本人が取り合わせて、そのまま今日に伝わっているらしい。

達磨大師はこちらに背を向け、水に浮かんだ芦(あし)の葉の上にすっくと立っている。向こう側にある目指す何かに向かって進みだそうとしているように見える。黒っぽい香合が鮮やかな盆に映えて、このセットを考え付いた人(織田信長の弟説あり)の得意気な声が聞こえてきそう。

彫漆(ちょうしつ)は漆を何百回と塗り重ねて層をつくり、この層を彫ることで模様を作り出すという技法。華やかというよりは落ち着いた感じで、却って精密さが際立つ。中国の皇帝から下賜されたものという盆は、きっと当時の最高技術に違いないと思い目を凝らす。

ぼんやりして単眼鏡を忘れたのが、痛恨の極み。

※一部撮影可