B面のつぶやき

美術館、図書館、喫茶店に出没しがちデイズ

あこがれの『鶴下絵三十六歌仙和歌巻』

東京国立博物館で開催中の「本阿弥光悦の大宇宙」展へ。心配した混雑はそれほどでもなく、人の流れは同時開催の中尊寺展の方に向かっていたようでした。仏像も見たいけど、集中力が持たない気がして今回は断念。

本阿弥光悦は総合芸術家と言われるほど多彩な人です。わたしがまず思い浮かべるのは書と蒔絵。それ以外に作陶もするし刀剣の鑑定にかけては当代随一。「光悦村」と呼ばれた芸術家村ではさしずめアートディレクターのような活動をしていたそうです。

守備範囲が広すぎて、かえってとらえどころのない人なのかもしれません。今回の展示では、深く帰依した法華経とのかかわりにも注目し、光悦の全体像を見通そうという内容です。

プロローグは東博ではお馴染みの『舟橋蒔絵硯箱』。高く盛り上がった蓋の形状と大胆にあしらわれた文字。あらためてじっくり見ていると、その存在感に圧倒されつつ「異形」という言葉が頭に浮かびました。破裂して、中からナニモノかが飛び出してきそうでもある。タイトルが宇宙なだけにビックバンかもね。

華麗で装飾的な光悦の書は、「光悦流」という流派を生み出します。楷書、草書、行書を自在に操り、太い線と細い線の差が大きい。これ文字だよね?と思うほどのほっそい字もあります。

今回特に見たかったのは『鶴下絵三十六歌仙和歌巻』。俵屋宗達の下絵に光悦がいにしえの和歌をしたためた巻物で、重要文化財に指定されています。

純化された鶴のシルエットが群をなす姿に呼応するように、肥痩に富んだ文字が散らされています。文字自体もまるで絵の一部のよう。金と銀の上に重ねた墨の黒が冴え、完成時の美しさはさぞや。

かれこれ15年ほど前、美術雑誌でこの作品を見て一目惚れ。それ以来、いつかは実物を見てみたいと思い続けていた憧れの作品です。京都国立博物館から借りてきてくれたおかげでようやく願いが叶いました。

www.kyohaku.go.jp

そのほかの作品の中で特に印象に残ったのは『赤楽兎文香合』です。直径10センチに満たない小さな香合がひときわ目立っていました。いびつな蓋の表面にサラッと描かれたウサギとススキ。

かつては松平不昧(江戸時代の茶人)や原三渓(実業家で茶人)が所蔵していたという一品。このウサギのお尻のかわいさは、軽々と時代を超えるのであります。

idemitsu-museum.or.jp

展覧会の締めは、「一生涯へつらい候事至て嫌ひの人(本阿弥行状記)」という光悦を評した言葉。やはり一筋縄はいかない人だったようです。