3フロアある展示室すべてを使った大規模展覧会。力の入り具合が伝わります。半休を取って乗り込んだ甲斐があるというもの。
アーティゾン美術館(石橋財団)は近年特に抽象画の収蔵に力を入れているようです。2015年以降に収蔵した95点を加えた150点のコレクションと、国内外から集めた作品とを合わせた264点が展示されています。抽象画の歴史を俯瞰することができるまたとないチャンス。
【展覧会構成】
- 抽象芸術の源泉
- フォーヴィスムとキュビスム
- 抽象絵画の覚醒 —オルフィスム、未来派、青騎士、バウハウス、デ・ステイル、アプストラクシオン゠クレアシオン
- 日本における抽象絵画の萌芽と展開
- 熱い抽象と叙情的抽象
- トランス・アトランティック-ピエール・マティスとその周辺
- 抽象表現主義
- 戦後日本の抽象絵画の展開(1960年代まで)
- 具体美術協会
- 瀧口修造と実験工房
- 巨匠のその後
- 現代の作家たち
ひとつのセクションで展覧会ができちゃいそうですね…。
まず最初に掲げられているのはポール・セザンヌの『サント=ヴィクトワール山』。アーティゾン美術館といえばこれ、という好きな作品です。絵の中で風景を再構成したセザンヌは、間もなく登場するキュビスム、フォービスムの成立に決定的な影響を与えます。
キュビスムの技法はセザンヌの直系の子どものようなもの。キュビスムを生んだパブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックは、セザンヌの「自然を円筒、円錐、球体として扱う」という考えに強い影響を受けたと言われています。理論はまぁ、よく分からないのですみません。個人的に感じるのは、焦点が合わないほど目に近づけたり、一点を凝視した後に視線をずらしたりするときの画像の歪みに通じる面白さです。こういうのもゲシュタルト崩壊と言うの?
『キュビスム的風景』ジャン・メッツァンジェ
視覚の不思議さという点では、オキーフの『オータム・リーフⅡ』も印象深いです。葉っぱ(落ち葉?)を描いているのは明らかですが、近づいたり遠のいたり、葉っぱ自体が1本の木のように見えたり、炎のように見えたり、具象と抽象の合間を作者と一緒に体感しているよう。
『オータム・リーフⅡ』ジョージア・オキーフ
日本における抽象絵画の動向についても紹介されています。「具体」や「実験工房」、現在も人気の草間彌生や猪熊弦一朗なども。驚いたのは白髪一雄の妻である白髪富士子の作品です。白一色で繊細に表現された作品が素晴らしかった。夫婦で芸術家、夫を支えるために活動をやめてしまったと知ると少し複雑な気持ちになります。岡本謙三は尖った作品が多いなかでの癒し。
『ユートピア』岡本謙三
最後は現代作家の章です。様々な技法の作品が紹介されていて、セザンヌからここまで来たか…という感じ。このセクションは無くても展覧会として成立したと思いますが、現代アートとも仲良くしたい身としてはうれしい展示です。それにしても作品サイズが総じて大きい。写真に上手く収められません…。
最後まで見終わり、気づけば3時間半が過ぎていました。足も頭もヘトヘト。大変充実した展覧会が、なんと高校生・大学生は無料(要事前予約)。もちろん放送大学生も無料で見ることができます。