B面のつぶやき

美術館、図書館、喫茶店に出没しがちデイズ

駆け込み「マティス展」|東京都美術館

8月20日で終わってしまうマティス展に行ってきました。混んでいるらしいので躊躇していたのですが、やっぱり行った。こんなに混雑した美術館は久しぶり。

アンリ・マティス(1869-1954)が絵を描き始めたのは20歳と遅いスタートでした。が、84歳で亡くなる直前まで描き続けたため、長いキャリアを持ちます。26歳の作品『読書する女』から晩年の『オレンジのあるヌード』、さらに内装を手掛けたヴァンスの礼拝堂までを時代順に紹介した回顧展です。

明るくて軽やかな作品が多いので、見ていて疲れない。中には途中で終わっているようですがよろしいのでしょうか?みたいな絵もある。『座るバラ色の裸婦(1935年4月-1936年)』とかですね。画家は絵の完成をどのように決めるのか、というのは永遠の謎です。画家さんに聞いてみたい。

www.centrepompidou.fr

一方、戦争の影を感じる作品のひとつが『コリウールのフランス窓(1914年)』。タイトルから、青、灰色、緑は窓枠だと分かりますが、一見まるで抽象画。当初は窓の外に風景が広がる構図だったそうです。しかし、パリに戻り第一次世界大戦が始まると黒く塗りつぶされました。西洋絵画の伝統では窓は視覚の隠喩です。アトリエから外に向かって開かれていた窓は閉じられてしまったらしい。

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セザンヌリスペクトな『緑色の食器戸棚と静物(1928年)』。浮いているような果実、落ちそうなナイフ、圧縮された遠近感、やや歪んだ空間。マティスセザンヌチルドレンのひとり。

今回は彫刻作品も多く見ることができました。等身大の『背中Ⅰ–Ⅳ(1909–1930年)』は年を経るごとにデフォルメされていくのが分かります。マティス自身は彫刻は絵画制作の副産物という位置づけだったようです。いやいや、とてもそんなふうには思えません…。立体にしたときに感じる形や重量を模索した結果が、あの唯一の線なのかな。こちらは『貝殻のビーナス(1930年)』。

晩年の『ジャズ』シリーズなどの切り絵作品も見どころです。サーカスを題材にした作品は、賑やかな中にも緊張感や哀愁を孕んでいるような。でもオーディエンスは即興のリズムに乗って楽しむのがきっと正解。仕事終わりの心に沁みたのでした。

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【一番上の写真】パイプを加えた自画像(1919年)